社会と企業のレジリエンス ~環境変化に負けない社会を支える~
日本全国で事業を行うヤマトグループは、自然や生物多様性の恩恵に支えられ、事業活動ができています。一方で、気候変動の影響や生物多様性の損失は深刻さを増しているといわれています。こうした環境変化に対して、私たちは社会的インフラとしての機能を果たすために事業のレジリエンスを一層高める必要があると認識しています。また、自社のみならず、ステークホルダーや地域社会のレジリエンスを高め、環境価値を生むために、多様なパートナーとの取り組みを進めています。環境方針のもと、環境と共に生きる社会をリードする物流インフラの在り方を日々、追求しています。
目標と実績
マテリアリティ | 2023年度目標 | 2023年度実績 | ||
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社会と企業のレジリエンス | ||||
環境変化に負けない社会を支える | パートナーと協働したグリーン物流 | 輸送パートナーのGHG排出量算定を開始 | ||
社会と連携した環境レジリエンスの向上 (実証や気候変動に適応する情報発信等) |
カートリッジ式バッテリー使用に向けた実証実験開始 | |||
環境商品/サービスの提供*13 | GHG排出量算定システムの開発 | |||
社会と連携した環境レジリエンス向上 | 緩和・適応策を支えるレジリエント物流の強化 | 実災害(大雨・台風・大雪)への対応や訓練を通じた情報発信やマニュアル継続見直し | ||
環境コミュニケーション | 情報開示の拡充や説明会開催等による情報発信の強化、投資家との対話、社内へのフィードバック | サステナビリティ(環境・社会)説明会実施 機関投資家(大株主)とESG対話実施 |
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TCFDに則した開示内容の充実 | 2023年度ヤマト運輸を対象に物理的リスクとして、洪水による収益の減少や施設・設備の被害による財務影響分析を追加実施 | |||
リスクコミュニケーションの充実 | コンプライアンス・リスク委員会において環境法令遵守状況の確認を実施 | |||
環境に優しい企業イメージ定着、環境の取り組みをフックに営業/コミュニケーションができる環境構築 | TVCMやSNS、社内報などで環境の取り組みを情報発信 | |||
パートナーと協働したグリーン物流 | 輸送パートナーの協力を得てGHGデータの把握と蓄積、改善支援体制の運用 | 輸送パートナーのGHG排出量算定を開始 | ||
環境法令順守やマネジメント:協力会社やサプライヤーの環境認定、改善支援 | 輸送パートナー40社に対してモニタリング(対面)を実施 |
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*13 環境負荷が少なく、環境価値がある商品やサービス
その他の目標は、「サステナビリティ戦略・目標と実績」をご参照ください。
パートナーと協働したグリーン物流
社外団体との協働
カートリッジ式バッテリーを軸としたエネルギーマネジメントの開発
GHG排出量削減に向けた各施策を推進するにあたり、物流業界の課題として、「EVの稼働と充電の両立」があります。EVの稼働と充電はどちらも日中の時間帯に発生するため、稼動と充電を両立する工夫が必要になります。また、再生可能エネルギー由来電力の急激な需要増による供給不足や、送電に必要な系統の容量不足などが懸念されています。これらの解決策とし て、ヤマト運輸(株)では、カートリッジ式バッテリーを軸とした、エネルギーマネジメントの開発に向けて、Commercial Japan Partnership Technologies株式会社(CJPT)と着脱・可搬型のカートリッジ式バッテリーの規格化・実用化に向けた検討を進めています。また群馬県では、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業として、エネルギーシステムの開発・実証を行うなど、EV運用方法の早期確立を目指します。
実証の詳細は、「気候変動の緩和の取り組み事例」をご参照ください。
スーパーフルトレーラ25
主要都市間の効率的な幹線輸送を実現するため「スーパーフルトレーラ25」(車両長25mの連結トレーラ。以下、SF25。)で物流他社と幹線共同輸送を行っています。本取り組みは2019年国土交通省の改正物流総合効率化法の認定を受け、効率化のための補助制度を利用しました。
SF25での共同輸送は、一般社団法人全国物流ネットワーク協会やその会員企業との協力により実現しました。同協会は、地球環境など社会の多様な利益と調和する物流の実現を図り、生活の向上等を目的にしており、GHG排出量削減に取り組んでいます。ヤマト運輸(株)はこうした目的に賛同し、会員としてグリーン物流などの取り組みに参画しています。SF25の走行に際しては、会員と共に「特殊車両通行許可基準」の緩和を支持し(車両長の制限を従来の21mから25mへ緩和)、実証走行実験に参加しました。その後、2018年度に国土交通省が特殊車両通行許可基準を改正し、SF25を使用した共同輸送を開始することができました。SF25は、1台で大型トラック2台分の荷物を運ぶことができるため、高い輸送効率とGHG排出量の削減が見込めます。
共同輸配送のオープンプラットフォーム
ヤマトグループは、持続可能なサプライチェーンを構築するため、企業間の垣根を超えた「共同輸配送」による物流効率化に向け、荷主企業や物流事業者など多様なステークホルダーが参画できる共同輸配送のオープンプラットフォームを提供する新会社「Sustainable Shared Transport株式会社」(以下「SST」)を2024年5月に設立しました。
SSTでは、共同輸配送のオープンプラットフォーム上で、荷主企業の出荷計画・荷姿・荷物量などの情報と、物流事業者の運行計画などの情報をつなぎ、需要と供給に合わせた物流のマッチングを行います。また、地域の複数の物流網を集約する共同輸配送を実行するとともに、高積載で安定した輸配送サービスの提供を行います。
サプライヤーやパートナーとのエンゲージメント
ヤマト運輸(株)は、物流事業者として輸送における低炭素技術の利用や実証実験などにサプライヤーやパートナーと協働して取り組んでいます(詳細は、「低炭素技術の導入と運用の効率化」をご参照ください)。輸送の委託部分のGHG排出量把握に関しても協力会社と連携して改善を進めています。
2021年度は、情報を共有できるアプリケーションに、GHG排出量の算定に必要なデータ入力機能を追加し、排出量の把握を開始しています。また、ヤマトグループが目指すサプライチェーンについて共通認識を形成するため、「ヤマトグループ ビジネスパートナー行動ガイドライン」を定めました。今後、主要サプライヤーなどと対話を深めていく予定です(詳細は、「サプライチェーンマネジメント」に関する方針をご参照ください)。
社会と連携した環境レジリエンスの向上
気候変動への適応
ヤマト運輸(株)は、激甚化が進む自然災害(台風・大雨・大雪など)に対して「自然災害の手引き」を整え、より対策を強化し、レジリエンスを高めています。気象条件や災害発生までの時間帯別に行動基準を設け、サービスへの影響に関するお客さまへの案内や社員・協力会社への安全確保・迂回の案内等を行っています。特に、深刻な影響が懸念される場合は、代表取締役社長を本部長とする災害対策本部を立ち上げ、関連部署が連携して復旧や支援に必要な情報を共有し、速やかな事業継続に努めています。事業復旧後は、地方自治体等と連携して救援物資の輸送にあたり、被災地の支援にも協力しています。また、継続的に実施しているのが、日本全国の拠点の水害リスクの評価や定期的な訓練です。荷物・車両・設備の被災防止のための保全や輸送可能なルートでの事業継続など、状況に応じて柔軟かつ迅速に対応できる力を毎年向上させています。
平均気温の上昇に対しては、ベース店や営業所での作業に適した冷風機の導入や社員の制服に吸汗速乾の生地を採用するなどの適応策をとっています。今後も社会的インフラとして気候変動に適応したレジリエント物流を目指していきます。
環境商品/サービスの提供
ヤマトグループでは、環境負荷が少なく、環境価値がある商品やサービスの拡充を進めています。
ヤマト運輸(株)は、顧客の多様な荷物の受け取りニーズに対応し、受け取り利便性の向上を図ってきました。
受け取り方を選択する手段として、会員登録すると希望の受け取り日・時間帯・場所を指定できる個人向け会員サービス「クロネコメンバーズ」を提供しています。
また、受け取り場所の選択肢を拡大するため、荷物の受け取り、発送ができるオープン型宅配便ロッカー「PUDOステーション」のインフラを整備しています。さらに、2020年より、ご自宅の玄関ドア前などで非対面での受け取りが可能なEC向け配送商品「EAZY」を、2022年にはEAZYにおいてオートロック付きマンションでも「置き配」を実現する「マルチデジタルキープラットフォーム」サービスの提供を順次開始しました。2024年6月からは「クロネコメンバーズ」会員を対象に「宅急便」「宅急便コンパクト」の受け取り方法として新たに「置き配」を追加しています。
小口保冷配送市場の健全な成長に貢献すべく、小口保冷配送サービスに関する国際規格づくりを英国規格協会(BSI)と連携して進めました。その成果として2017年にBSIから「PAS 1018: 2017」が発行されています。健全な市場を形成し、サービス提供機会の拡大を図ります。
法人顧客のGHG排出量の可視化に向けたサービス開発も進めています。2023年3月20日に発行された物流領域におけるGHG排出量算定基準の国際規格ISO14083:2023*1に基づいたGHG排出量可視化ツールの開発を進めています。本国際規格は、トラック輸送だけでなく、航空・海上輸送などのあらゆる輸送手段やターミナルも含めたGHG排出量の算定基準です。法人顧客のScope3*2に該当す るヤマト運輸(株)の輸送によるGHG排出量を、より実態に即した算出を可能にするグローバルで活用できる可視化ツールを開発します。
*1 物流事業者全般(道路、鉄道、航空、海上、水上など)」を対象とした、輸送で生じるGHG排出量算定基準
*2 企業が間接的に排出するサプライチェーンでのGHG排出量
ヤマトオートワークス(株)では、電気自動車の整備や充電設備の施工管理等、低炭素車両の利用拡大に貢献するサービスを提供しています。サービスの提供に当たり、「低圧電気取扱業務特別教育」または「電気自動車の整備にかかる特別教育」を修了した832名を専門人材として社内登録しています(2024年9月時点)。電気トラックや電気バス等の整備実績を強みとして今後もサービスを提供し、物流業界の低炭素化を推進する役割を担いたいと考えています。
環境コミュニケーション
ステークホルダーや地域社会との環境コミュニケーションを大事にし、情報開示の拡充や強化、投資家の皆様との対話などの双方向コミュニケーションに努めています。
社会への情報発信と教育
ヤマトグループの環境の取り組みについては、ニュースリリースや企業CM、動画、ハンドブック、SNSなどで情報発信を行っています。また、社員の環境意識を向上させ、適切な環境マネジメントを実現するために、環境教育や社内報での啓発も継続して実施しています。環境マネジメントシステム研修については、ヤマト運輸の役員や本社部長、全国の業務役職者、環境マネジメントを担当する社員が教育を受け、日々の業務管理に学びを活かしています。内部監査員研修、環境コンプライアンス研修、サステナビリティ基礎研修も実施し、環境の取組みへの理解を深めています。2023年度は、約730名が環境関連の教育を受講しました。その他、各ステークホルダーとのコミュニケーションの詳細は、「ステークホルダーエンゲージメント」をご参照ください。
地域との環境コミュニケーション
ヤマト運輸(株)では、次世代を担うこどもたちへの環境教育をサポートするため、「クロネコヤマト環境教室」を2005年10月から開催しています。こどもたち一人ひとりの⼩さな取り組みの積み重ねが地球にやさしい⾏動や地域の環境保全につながることを学び、⾃分たちにできることを考えるきっかけとなるため、2023年より「クロネコヤマト環境教室」をリニューアルしました。
- 2023年度までの累計開催数3,397回
- 2023年度までの累計参加者数257,239人
* 2020年度以降は新型コロナウイルス感染症の状況をふまえ未実施。
生物多様性の保全
豊かな社会を支える自然と共生するために、ヤマトグループは地域の生物多様性の保全に取り組んでいます。
事例1:いきものの生息地の復元
物流ターミナル「羽田クロノゲート」には、自然環境との共生を目指した「(施設名)和の里」を設けています。そのエリアには、地域の生態系に合う樹木を植栽し、自然石材を利用したビオトープを設置しています。
2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 |
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2,800 | 2,800 | 2,800 | 2,800 | 2,800 |
- 範囲:国内連結会社および(株)スワン
事例2:海の保全活動
近年、海水温の上昇に伴うサンゴの死滅が問題になっています。沖縄ヤマト運輸(株)は、自治体や地域住民・企業によるサンゴ保全活動「チーム美らサンゴ」に参加しています。チームの一員として、サンゴの苗づくりや植え付け、啓蒙活動などを支援しています。
また、県内各地でビーチクリーンなどの地域清掃活動を行い、社員の環境意識の向上や、美しい沖縄の海の保全活動に取り組んでいます。
サステナブルファイナンス
環境に配慮した取り組みを積極的に推進するための資金調達手段として、ヤマトホールディングス(株)として初めてのグリーンボンドを、2023年7月に発行しました。
国際資本市場協会(ICMA)が定めるグリーンボンド原則(GBP)2021、環境省のグリーンボンドガイドライン(2022年版)などで定められた4つの柱(1.調達資金の使途、2.プロジェクトの評価及び選定プロセス、3.調達資金の管理、4.レポーティング)に従い、「ヤマトホールディングス グリーンファイナンス・フレームワーク」を策定しました。本社債の調達資金は、各拠点や事業所におけるEV・太陽光発電設備などに充当します。