新商品開発秘話③~クール宅急便~
「荷物は一日中暑さの中であえいでいる。
荷物にも涼しい思いをさせてやれないものだろうか(小倉昌男著「経営学」より)」。
「クール宅急便」の開発は小倉昌男のこの言葉を原点に始まった。
宅急便開始後、お客さまから新鮮なものを送りたいと言う要望があり、現場ではすでに氷詰めをするなどさまざまな試みが始まっていた。
プロジェクトの発足は1984(昭和59)年。
冷凍・チルド・冷蔵の3温度帯の冷蔵庫を集配車・運行車・営業所のすべてに設置するという革新的なチャレンジだった。
当初の開発見積費用は約300億円だったが昌男はためらわなかった。
その背景にあったのは、「サービスが先、利益は後」という理念である。
荷物を冷たいままお届けする「走る冷蔵車」に立ちはだかった壁は車の電源確保だ。
発想を転換し電気の代わりに考えたのが蓄冷材だった。
実験と研究を重ねた結果、クール宅急便専用の蓄冷材が完成。
クール宅急便は、3年の開発期間と150億円の設備投資をかけて1988年7月に発売された。
1993(平成5)年には家庭の実情に合わせ、冷凍・冷蔵の2温度帯に変更。
電気を使わず、環境にもやさしい、食品を新鮮なままお届けできるクール宅急便の登場は産地直送を可能にし、生鮮食品の流通を変えたといえる。