4. バリュー ネットワーキング構想へ
アジア ネットワークの拡大
2008年、平成20年、ヤマト運輸に海外戦略拡大のための、グローバル ソリューション営業部を新設した。目的は、国際物流の対応力を強化し、課題解決を提案できる基盤を構築すること、たっきゅうびん事業を海外展開し、各地で面となったネットワークを結び拡大することだ。それ以前の2000年には、台湾で現地企業とライセンス契約を結び、たっきゅうびんサービスを展開していたが、その取り組みをアジア各地にも広げようと考えたのだ。2011年からの、ダントツ 3か年計画ホップでも、アジア ネットワークの拡大を基本戦略の一つとして掲げた。
2010年1月には、生活水準が向上する一方で、類似した物流サービスがないシンガポール、上海でたっきゅうびん事業を始めた。同年には、日本と台湾、シンガポール、上海を結ぶ国際たっきゅうびんもリニューアルしている。2011年2月には香港で、同年9月にはマレーシアでもたっきゅうびん事業を開始。マレーシアはインターネットの普及率が高く、通販需要を見込んでの参入だった。さらに2017年にはサイアム セメントグループとの合弁会社、 SCG Yamato Express が、タイでたっきゅうびん事業を開始した。
バリュー ネットワーキング構想の推進
2013年、ヤマトグループは、バリュー ネットワーキング構想を発表し、翌年からの、ダントツ 3か年計画ステップでも、基本戦略のひとつに定めた。
この背景には、日本国内で進む、労働力の減少、EC の急激な拡大、あらゆる業種業態に影響を及ぼす AI、デジタル技術の進化、物流のボーダレス化など、物流を取り巻く環境の大きな変化があった。
同構想は物流を、コストからバリュー、価値を生み出す手段へと進化させ、個人のお客さまだけでなく、法人のお客さまのビジネスシーンでの生産性や国際競争力向上の支援をめざしたものだ。これによって、ヤマト グループは、より広いお客さまの、物流の改革に取り組んでいくことになった。
当時のヤマト ホールディングス社長、きがわ まことは、同構想について次のように語った。「路線事業の開始、たっきゅうびん事業の開始に次ぐ、第3のイノベーションと位置づけている。これまでの物流の価値は、配達の品質、スピード、コストのどれかがニーズを満たしていればよしという、いわば足し算によってはかられてきた。しかし、今や、どれかが期待に応えられなければ、全てがマイナスになってしまう。その一方、どれかを改善すれば、全体の価値を大きく上げることもできる。つまり、それぞれを掛け算して得られる、物流価値の向上によって評価される時代になったのだ」。
同構想を実現するため、ヤマト グループは、企業発の物流を中心に、多彩な付加価値モデルの創出を加速していった。たとえば、荷物が増えても、品質やスピードは変わらず、コストも上がらないことを実現できる物流、アジアでニーズが顕在化しつつある、こぐち、たひんどの調達、納品、国際保冷、国際通販、お客さまの製品の流通加工など、クロス ボーダー ネットワークと、ヤマト グループがもつアイティ、エルティ、エフティの機能を融合させた、付加価値の高いビジネス モデルの創出をめざした。
こうした動きを支える新たな施設も生まれている。2013年、ヤマト グループ最大の物流ターミナルである、羽田クロノゲートが稼働を開始。陸海空の主要ターミナルから近い距離に位置し、通関、保税、出荷など、まさに国内と海外をスピーディーにつなぐ役割を担うほか、医療機器の洗浄やメンテナンス、製品部品の組み立てや修理など、スピードが求められる付加価値サービス提供の拠点としても機能し始めた。2015年には、沖縄グローバル ロジスティクス センター (サザン ゲート) を開所。24時間365日稼働の、止めない物流、および国際クールたっきゅうびんの拠点を担うとともに、化粧品の充填や包装、 アイ オー ティー機器のキッティングも手がけるようになった。
また、止めない物流を推進するため、関東、中部、関西という大消費地圏に、総合物流ターミナル、ゲートウェイを設置する、ゲートウェイ構想を推進。2013年に、厚木ゲートウェイ、2016年に、中部ゲートウェイを竣工、2017年に、関西ゲートウェイを開所し、それまでの都道府県単位で設置された全国約70のベース間での幹線輸送ではなく、ゲートウェイ間での多頻度幹線輸送とともに、作業の自動化を進め、グループ ネットワーク全体の最適化と、コストの低減をめざしている。
さらに、ヤマト ロジスティクスでは、物流を、バリューを生み出す手段へと変貌させる仕組みのひとつとして、独自の物流システム、フラップス、Free Rack Auto Pick System を開発した。可動型のラックを使用することで、倉庫の有効スペースを増やすとともに、入庫から出庫までの工程時間を圧縮し、生産性向上とコスト削減を実現。お客さまの物流拠点などにも導入された。
また、アジアを中心とした小口保冷配送サービスとして、2013年、特に日本発、香港向けの国際クールたっきゅうびんを発売し、それ以後も台湾、シンガポール、マレーシア、タイへと拡大していった。さらに、ヤマト グループの提案により、宅配をはじめとする関連企業、業界団体、有識者等が参画し、2017年に、英国規格協会によって、小口保冷配送サービスの国際規格、 PAS1018 が策定された。そのごも官民連携で PAS1018 の普及に取り組んでいる。
こうした一連の取り組みは、小口保冷配送サービスが、信頼されるインフラとして、アジアを中心とした海外で根付くうえで大きな一歩となった。
上海でのたっきゅうびん開始当時のたっきゅうびんセンターと集配 シャ。2010年。
香港でのたっきゅうびん。2015年。
マレーシアでのたっきゅうびん。2011年。
バリュー ネットワーキング構想について語る、きがわ まこと、 YHD 社長。2013年。
羽田クロノゲート内の前詰め搬送機。ボックスを機械に投入すると、荷物の積み下ろしぐちまで自動で移動。2013年。
羽田クロノゲートでの修理作業。2014年。
沖縄グローバル ロジスティクス センター (サザン ゲート)。2015年。
サザン ゲートでの充填作業。2016年。
関西ゲートウェイ。2017年。
中部ゲートウェイでのクロス ベルト ソータ。底面をスライドさせる仕分け方法で、従来の2倍の処理能力をもつ。
関西ゲートウェイでのスパイラル コンベア。上層階で流通加工した荷物を仕分けエリアに直結させ、作業時間を短縮。
厚木ゲートウェイでのフラップスを使った作業。
沖縄国際物流ハブで、航空保冷コンテナを貨物機に積み込む。
香港でのクールたっきゅうびんのお届け。2013年。
プロジェクト G で、くらしのサポート サービスを展開する東京、多摩ニュー タウンで集配作業中の SD 。2016年。
株主向け冊子で、カイカク 2019 フォー ネクスト 100 の概要について語る、ヤマウチ雅喜、 YHD 社長。2017年。